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種明かしは後ほど

Sexed Up
/ Robbie Williams

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ブラック・コーヒーの甘さ
 先日はカイリー・ミノーグの記事を書いたので、今回は彼女と親交がありデュエット経験もあるこの人。ロック・ファンはリアム・ギャラガーのかつての天敵くらいにしか思っていないかもしれないが、僕のパーソナル・アイドル(こんな言い方あるのか?)であるテイク・ザットのメンバーであり、ソロとしてもヨーロッパを中心に絶大な人気を誇るポップスターである。今回紹介するこの歌は、02年に発表された彼の五枚目のソロ・アルバムとなる『エスカポロジー』の中から03年にシングル・カットされた楽曲。“エンジェルズ”“ロックDJ”“フィール”など数多くのヒット・ソングを持つシンガーであるが故、それほどディスコグラフィーの中では際立った存在感を放つ歌ではないが(全英十位とチャート・アクションも微妙)、僕はこれがダントツですきだ。恋人への不満や幻滅、そして「別れよう」という言葉が最後の手紙のように綴られるソフト・ロック調の名バラード。美しいメロディを持っている歌だが、しかし痛烈な内容である。君の悪いところ、これだから君とは一緒にいられないんだ、勝手にしろよ、結局すべては無駄な時間だったというわけさ、僕はもう出て行くよ、新しい「君」を見つけに行くんだ、さっさと僕の前から消えてくれよ――届ける前の手紙だからこそ書くことができたような、辛辣な言葉が並ぶ。彼の語る言葉から切なくやりきれない物語を見出して聴くのもいいだろう。
 しかしそれだけでは単なる優れた普通の失恋ソングで終わっていたかもしれない。歌の最後で、聴こえるか聴こえないかのギリギリの音量でささやかれる、オフィシャルなリリックにも載っていないその最後の一言が、この歌を稀有な存在に変えている。事実、98年に発表されたシングル“ノー・リグレッツ”のB面曲としてすでに発表されていたこの歌のデモ・ヴァージョンではそのささやきが収められておらず、デモという品質を差し引いたとしても、どうも味気なく聴こえてしまうのだ。加えて、この歌の収録されたアルバムのタイトルである「エスカポロジー」という言葉には「縄抜け」という意味があり、その言葉が示すとおり、この最後の一言がまるでマジックのように、物語に登場する二人の立ち居地をガラリと変えてしまう。お互いを憎み合うかのようにずっと背中を向けていた二人が、一瞬にして振り返り、再び向き合うようなミラクルなささやき。一組のカップルが、コーヒーカップが二つ置かれたテーブルを間に挟んで座っている。深刻な雰囲気だけを漂わせて、二人ともずっと黙ったままだ。昨晩書いた手紙の言葉を実際に口にすることもできずに沈黙を守り、どちらかが淹れたブラックのコーヒーにも、二人ともまったく手をつけていない。温かかったコーヒーは、もうすっかり冷め切ってしまっているだろう。じっと俯いてコーヒーカップを眺めたまま、昨晩の手紙ではひどいことを書いたけど、きっと二人とも、実はまったく同じことを望んでいる。こうして待っていたら、いつかこの冷め切ったコーヒーが温かさを取り戻す時がやってくるんじゃないか――。しかしそうやって無言のまま向き合い時を待つ二人の距離は、背中を向け合って佇んでいたときよりも、圧倒的に遠い。そんなもどかしい一言である。
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うまく弾けないときにあんなにも悔しい思いをする楽器は恐らくピアノの他にはない | top | 身長153センチだそうです

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