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死は、他の人の身に起こることだ……

Adore
/ The Smashing Pumpkins

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君さえいなければ不思議なものなどひとつもない
 ビリー・コーガン率いる「スマパン」ことスマッシング・パンプキンズによる98年発表の通算四枚目となるスタジオ・アルバム。方々で高評価を得た95年発表のアルバム『メロンコリー』に伴うツアー中、それまでビリーの精神面を支え続けてきたドラマーのジミー・チェンバレンが薬物摂取により逮捕され、この『アドア』は正式なドラマー不在のもと制作された。そのことをきっかけに、本作におけるバンドの音楽性は急激な変化を強いられ、名曲“トゥナイト、トゥナイト”などに代表される前作の極端なほどドラマチックな楽曲構成とは違い、打ち込みの多用されたダウナー・ミュージックのようなトーンで全編が展開されている。日本以外のメディアでは酷評を受けた一枚であり、オルタナが商業的に肥大したへヴィ・ロックの勢いに飲み込まれた時期ということもあって、スマパンのディスコグラフィーを語る上で、あまり俎上に載せられることのない地味な立ち居地のアルバムではある。しかしそんな苦境に立たされたアルバムであるが故に、本作におけるビリーの、失われつつあったアイデンティティの継続に対する思いはまるで怨念のように、静謐にして熾烈に、全編に黒い影を落としている。
 世界は、「自分」と「それ以外」の二種類だけで成立している。そう思い込んで生きてきた少年にとって、「君」という存在の登場は劇的だった。もしかしたら僕と君は、もともとひとりの人間だったのかもしれない。それが何かの拍子に分裂した。しかしここでまた、共に片割れを見つけることのできたふたりは再びひとりへ還元する。そんな思いつきは、完璧主義者であると同時に理想主義者であった彼にとっては、あまりに美しく、そして都合がよかった。それなのに、それなのに君という存在が僕を狂わせる。君は天使なのか、それとも悪魔なのか。もしも太陽が輝くことを拒絶したら、もしも夜空を飾る星々が躊躇いを見せたら、もしもこれが真実でないとしたら――次々と現れる発想だけで瓦解する脆い自我。「自分」と「それ以外」しか存在しないという究極の孤独を理解して生きてきたはずなのに、誰も自分のことを理解してはくれないと叫び始めるわがままなエゴ。愛して止まない、もはや崇拝にも近い君の存在だけが、僕の世界に渦のような謎を巻き起こす。こんな世界に生まれるはずじゃなかったと悲観する一方で、それでもパーフェクトを求めた限界の音が鳴っている。そんな途方もない自己矛盾がときどき、生まれながらにして泣き暮れている赤ちゃんみたいに、美しい。
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