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初めて書いたラヴレターにはロックのことしか書かなかった

Everything
/ Mary J. Blige

Mary j Blige-Everything
初めてのラヴ・ソング
 特大ヒットを記録した97年のサード・アルバム『シェア・マイ・ワールド』からの三曲目のシングル・カットとしてリリースされたこの歌。クイーン・オブ・ヒップ・ホップ・ソウルとも称される彼女のグラマラスなヴォーカルが聴ける名ラヴ・バラードである。それだけでも十分に豪華な歌であることは間違いない。ジャネット・ジャクソンの数多くのヒット・アルバムを支えた実績を持つジャム&ルイスのプロデュースも素晴らしい。スタイリスティックスやジェームス・ブラウンの名曲のフィーチャーと共に、実は坂本九の“上を向いて歩こう”のメロディまで借用されている、と言えば、この楽曲がどれだけ破格な内容であるか理解してもらえるだろうか(もちろんこういった固有名詞に頼り切った情報を食べさせるよりも実際に聴いてもらうだけで、どれだけ音楽に親しみのない人でもこの歌の素晴らしさは理解してもらえると確信している。それだけの名曲だ)。とにかくメアリー・J・ブライジという名シンガーの巨大な存在感なくしては歌えない歌、むしろ歌う側が試される歌というか(これは存在感云々だけでなく歌唱力においても、である)、音楽的な内容にしても雰囲気にしてもひたすらゴージャスな歌なのだが、しかし、歌詞がもう、なんというか、誤解されたくないのだが、ひどく拙い。何度も何度も繰り返される、"You are everything, and everything is you"というフレーズ。この歌でなければ、顔をしかめてしまうほどこれはちょっと……と個人的には思ってしまうセンスだ。例えば、「例えば」という言葉の説明の出だしでいきなり「例えば……」と言い出してしまうようなもので、あなたの持つその素敵な「すべて性」をそのまんま「すべて」という言葉で表現してしまうという、これはちょっと素直すぎやしないか、と思もってしまわないだろうか。そう言ってしまったが最後、その「すべて性」はどう頑張っても相手には本来よりも不足した状態で伝わる。言葉とはそういったジレンマを常に生み出してしまうものである。しかしこの歌に限っては、この、拙く、「すべて」と言っているのに不足したフレーズが、いいのだ。たまらない。これだけゴージャスな内容の歌が、何故だかそれだけの「すべて」しか語れないというもどかしさ。まるで、横になったボトルの中で何年も寝かされていたワインが初めてコルク以外の世界を味わった瞬間のような、そんな芳醇な香りさえ思わせる。そう、それは、初めて「すき」と伝えることのできた喜びと類似する。どんなに不器用な言葉でもいい。それをようやく口にすることのできたうれしさに、批評は必要ないだろう。相手に思いが伝わるかどうかはわからない。それでも自分自身に対しては間違いなく伝わるのだから。
 このブログ上だけでなく、何について書くにしても同じことだが、自分の書いた文章を読み終えるたびに、何かが足りない、と思う(何もかも足りない、と思ったときのことを記事のタイトルにした)。自分の感じた「すべて」をそのままの品質で伝えることは本当に難しい。何事にしても、満足はなかなかできないものだ。しかしそうやって、何かが足りない感触をコレクトしてポケットを一杯にするのも、人生の楽しみのひとつかもしれない(ポケットに手をつっこんで何かを確かに握っているふりをすればいいのだ)。最後にどうでもいい話だが、墓場に持っていくラヴ・ソングをいくつか選べと訊かれたら(訊かれたときのために色々なバリエーションでリストアップの準備はしているのだが、もちろん誰にも訊かれないからここで勝手にこんなことを言うのであって、しかし、ラヴ・ソングを墓場に持っていくな、くらいはこれを読んだ誰かに心の中で言ってみてほしいものだ)、この歌は間違いなく僕の有力候補のひとつだ。
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