FC2ブログ

2010年ベスト・ソング⑤

Someone's Missing
from the album "Congratulations"
/ MGMT

mgmt-congratulations-aa.jpg
どうせなら宇宙の果てまで行け
 自分探しの旅、と呼ばれるものが疑わしい。いったい何がどうなって、世界一周とかしてしまうのだろう。もしも色々と考え事がしたいのなら、椅子に座って目を閉じるだけでいい。日焼けなんてしなくても、すぐに迷子になれる。「自分探しの旅」。実に聞こえのいい呪文である。では、これはどうだろう。「生きている」。鉄壁の呪文だとは思わないだろうか。人類が作り出した、最強の宗教である。正確には、この宗教によって、人間は「生かされている」。そして、どうやら人間の作り出すものは、常にこのシステムをプログラムされて出来ているようだ。社会、法、コミュニティ、テクノロジー、情報、時間、自然、言葉、感情、意識、神。人間が生み出したこれらのものが、なぜかその持ち主であるはずの人間を拘束し、掌握し、他でもない人間に奉仕されることを望む。人間はいつのまにかその制約の中でしか生存できなくなってしまった。すべてが生命維持装置。「生きている」という幻のチューブに繋がれて、「生かされている」。いったい誰の意思で? そこにとりあえず納得するしかない答えを捏造するために、人間は自我を持った。これが、「生きている」という宗教の起源だ。しかし、本当にそうだろうか。社会を怖れ、法に縛られ、情報を食い、感情に戸惑う。どこまでが本当の自分の、本物の意思だろうか。「生きている」と思い込んでいる人間は、知らず知らずのうちに、まさにその思い込みによってこそ、「生かされて」はいないか。この宇宙は、何者かの手によって囚われていやしないだろうか。昨年発表されたMGMTの『コングラチュレイションズ』というアルバムは、そんな囚われの宇宙の外側でしかなし得ない、まだ犯されていないまっさらな歓喜の産声に、限りなく近づこうとした作品である。そんなアルバムの中から、恐らく最もポップであろうこの曲を選んだ。記憶の彼方を探っても思い出すことのできない、どこの国を訪れても出会うことのない、Googleの検索でさえも見つけることのできない、失われた「Someone」を取り戻すことで、彼らは、あるべきものがないこの宇宙からの大胆なエスケープを図った。誰かがいないような気がする。そんな偶然のような思いつきを発掘した瞬間、この歌は凄まじい絶頂を記録する。しかし、ようやく盛り上がったと思ったそばから、萎むようなフェードアウトでこの歌は終結へと向かう。ずっとこの構成が不思議だった。どうしてもっとこの高揚を持続させてくれないのか。しかし、やはりそうでなければいけないのだ。ひらめきへの喜びもつかの間。今度はこの真新しい発想に「生かされる」。襲い来る大波のように宇宙はいまも、その漆黒のマントを広げ続けているのだ。
スポンサーサイト



06:40 | 音楽 | comments (0) | trackbacks (0) | page top↑
2010年ベスト・ソング⑥ | top | 2010年ベスト・ソング④

コメント

コメントの投稿















管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://overtheborder.blog64.fc2.com/tb.php/977-7138e9ca