FC2ブログ

なんで悪役には、色が無いんだろう

Danger Days
/ My Chemical Romance

My Chemical Romance-Danger Days
本当のパレードはどこからでも始まる
 二十一世紀の音楽シーンにおいてひたすらに「リアルである」ということは、常にその根底に何らかの閉塞感や危機感を秘めていることが最大の条件だった。06年の超スーパーウルトラミラクルマックス大傑作『ブラック・パレード』から実に四年という長いブランクを経て発表されたマイ・ケミカル・ロマンスの最新作であるこのアルバムが、そういったものとまったく無関係のオプティミズムに溢れたものだというつもりはない。ただ、こんなにも開かれたアルバムがここ十年の音楽シーンにあっただろうか。下を向いて歩いていたから気付かなかった。見上げてみれば、空はいつの間にかきれいに晴れ上がっているじゃないか。そんな晴れ晴れとした入り口で聴き手を迎えてくれる、素晴らしいアルバムだ。
 マイケミというバンドは、常に誤解と共にキャリアを進めてきたバンドだ。モノクロの世界に、一箇所だけ血のような真紅を湛えた世界観(それは確かに一見、悪役特有の「失われた色」を象徴するものに映るかもしれない)。若者の自殺・自傷行為・薬物使用を助長すると名指しで悪の枢軸のように呼ばれた頃もあった。メジャー・デビュー期の彼らの一般的かつ簡潔なイメージ(観察力が足りないとしか思えないが)、それはまさに「気持ちのいい絶望」といったところで、勘違いも甚だしいものだった。そしてだからこそ、否が応でも「死」のイメージがまとわりつく『ブラック・パレード』は彼らにとってひとつの大きな挑戦だった。あのアルバムが提示した価値観とは、“ジ・エンド”“デッド”という冒頭を飾った二曲が示すように、すべてが終わったと思える場所から、それでも生き延び続ける何かを探る勇気だった。「死」というある種の救世主(それが幻想でしかないとしても)ですら救えない何か。いや、そんなものに救わせるわけにはいかない何かを求める旅だった。たったひとりの「君」だけは、全能的でかっこいい救世主なんかに救わせない。「君」を守るのは「僕」じゃなきゃいやなんだ。完成されたコンセプト、破格のメロディ・センス、危うささえも厭わない選び抜かれた言葉の数々。全エネルギーを放出して制作されたはずの『ブラック・パレード』。しかしもう二度と誤解されるわけにはいかなかった。『ブラック・パレード』は「死」の美化ではない。だから、だから、彼らにはその大行進を、どうしても殺すことが必要だった。手放さなければならなかった。ブラック・パレード・イズ・デッド。彼らは律儀すぎたのかもしれない。しかし、それだけ譲れないものがあったということだ。「君」を守るものが、ブラック・パレードであってはいけない。「僕」でなければいけないからだ。それがロックという愚か者の音楽に残された唯一の知性だと彼らは知っているのだ。
 人の記憶力ほど当てにならないものはない。ひとりの人生では長すぎるから、一冊の本がある。一冊の本では長すぎるから、数行の詩がある。それと同じだ。詞を覚えやすくするために、メロディがある。マイケミのポップネスはその部分に対してひどく誠実である。フレンドリーなメロディのすべては、これを聴いた者が、口ずさむためにのみある。ある意味で、自分たちの歌に対する執着心が少ない、といえるかもしれない。誰の歌であっても構わないのだ。この最新アルバムには“セイヴ・ユアセルフ、アイム・ホールド・ゼム・バック”という楽曲が収録されている。タイトルからして、これ以上にマイケミのマニフェストを明確に表象した楽曲はないだろう。救世主は言う。「わたしが君を救おう」。ロックなんて聴いていたって、何の役にも立ちはしないさ。ただ、ロックだけは、決してそんなことは言わない。
 前作で死の大行進に扮していたマイケミは、本作ではライダージャケットに身を包み、髪をカラフルに染め上げて、腰に銃まで用意して凝ったコスプレを楽しんでいる(どこかこう、仮面ライダー連想しない?)。ギャング集団killjoysっていうらしいんだけど、そんなメンバーが悪者をばっさばっさと倒していくわけ。で、細かいとこだけど、ここが本作で僕が一番うれしかったとこ。ドラムのボブ・ブライヤーが脱退して、いま、メンバー四人なんだよね(脱退がうれしいわけじゃない。四人である、という純粋な事実がうれしい)。わかる? 四人なんだよ。かっちょいい戦隊モノっていったら、レッドを中心に、五人で決まりでしょ? そう、ひとり足りないんだよ。最初から歌ってみたら僕の言いたいことの意味がわかるかも。そんなすぐに歌えないって? いったい誰が作ったアルバムだと思ってるの? マイケミだよ。二回目にはもう完璧にトレースできる。優れたポップ・ミュージックに条件があるとすればそれは、すぐに真似して歌えるかどうかっていうところ。それだけだよ。そして、そういう意味で、こんなにも優れたポップ・アルバムを、僕はそんなに多くは知らない。
 ともかく、ひとりの人生は短いようで長く、長いようで短い。ゆっくり歩いても、早足で歩いても、その長さは変わらないさ。それならひとまず歩調を合わせて歩いてみよう。色さえあれば、何色だって構わないさ。主役は紛れもない「僕」だ。マイケミは誤解されていたときからずーっと、そういうバンドだった。

スポンサーサイト



23:28 | 音楽 | comments (0) | trackbacks (0) | page top↑
You turned around, I disappeared. | top | 左手ははぐらかすのがお得意

コメント

コメントの投稿















管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://overtheborder.blog64.fc2.com/tb.php/969-161f5138