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たった一言の解説で、ジョークはたちまち瓦解する

Songs About Girls
/ will.i.am

will i am-songs about girls
もしかしたら、もしかしたら――
 ブラック・アイド・ピーズの頭脳、ウィル・アイ・アムによる07年のソロ・アルバム。『エレファンク』『モンキー・ビジネス』期のブラック・アイド・ピーズを期待して聴いたら肩透かしかもしれない。見栄えするメロディよりも個人的な趣向、特にヒップホップ以前史の音楽に特化したようなイメージ。派手な楽曲はなく、どれもパーティーでたったひとりだけ照明の光の当たらない男の独白みたいだ。素晴らしい曲があった。十曲目の“ファンタスティック”。誰が聴いてもジャクソン5“帰ってほしいの”のイントロを連想するであろう音運びを使用しながらも、あの奇跡の瞬間が始まると予感したそばから、それを裏切るように音が低く沈んでいく。バックトラックは延々それの繰り返し、結局のところ“帰ってほしいの”の決定的なメロディはいつまでたっても完成しない。そこでウィルは過去に付き合った女性についてのあれこれを淡々と語っていく。「大丈夫。俺は大丈夫。俺は最高だから」と自分自身に言い聞かせるように歌いながらも、彼女との関係が続いていた頃の細かい年月を、彼はいまなお明確に把握している。どの楽曲も、歌われている内容は似たり寄ったりだ。女性との極めてプライヴェートな思い出を展開しながらも、そんな自分の姿にうっとりしたり落ち込んだりせずに、決して感情に狂うことなく、巧みにセルフ・プロデュースをしている。が、たまに、“ファンタスティック”みたいな綻びが見える。いくつかの楽曲で聴くことのできるウィル特有のリズミカル・タームのリフレインでは、その聴き心地のよさよりも、言葉と言葉の狭間で弾けるシャボン玉みたいな彼の深い息継ぎが、いつまでも耳に残る。“ファンタスティック”の中で彼は、かつて親しんだ懐かしいメロディの再現を何度も何度も試みる。ベース・ラインはこう、ここでギターの印象的な音――。覚えたての楽器を操る幼い手みたいに、しつこく確認しながら。でも、何回繰り返しても、あのメロディがどうしても鳴らない。思い出と記憶の違いについて、思い出はすべて思い出せる、記憶は思い出せない、と言った人もいる。でも、こういうこともあるんだ。記憶は、たまに再生・再現できるものがあるかもしれない。でも思い出は、思い出すことしかできない。そのもどかしさだ。
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