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レコードみたいに傷つきやすい過去

Roots And Echoes
/ The Coral

Coral-Roots  Echoes
永遠に訪れない季節に忘れ物
 さっきまで頭上にあったと思い込んでいた太陽が、気付けばもう沈んでいる。この感傷的な季節になると、毎年決まって無性にコーラルが聴きたくなる。ちょうどよく新作も発表されたことですし、ちょっとこれまでの作品を振り返っています。07年に発表されたこのアルバムに収録されている“プット・ザ・サン・バック”。この時期になると、この歌が頭から離れなくなる。その根拠は、センチメンタル。多分これがすべてだ。コーラルの歌ははっきり言って、例えば純音楽的な発展だとか、前代未聞の実験性だとか、そういう真新しさとはまったくもって無縁の音楽だ。しかし、ビートルズやゾンビーズなどのかつてのリバプール・サウンドの大御所バンドたちと並べてみてもまったく遜色のない、いい意味での渋み、「わびさび」のようなものを感じさせる(それそのものがすでに実験的だということもできるが)、そういう意味ではほとんど唯一といっていいほどの、二十一世紀の優れたバンドだ。それは、彼らの歌に、ある種の「記憶」が込められているからだろう。誰かが頭の中で何度も思い描き、再生し、すっかり擦り切れてしまったフィルムのような淋しさ。そう、その記憶とは、過去と名付けられた遠い昔の季節。思い出せるのは風景の幼い色合い。控え目な演奏隊の佇まい、少しかすれ気味のボーカル、切なすぎて目をつむったようなコーラス・ワーク。“プット・ザ・サン・バック”では、いつの間にか歯車の狂ってしまった恋人の物語が歌われる。涙を隠そうとした恋人に、彼は歌う。「We've got to put the sun back in our hearts」。そうは思うけど、彼にも何をどうしたらいいのかわからない。大好きな一行があるんだ。君とまたあの頃のようにやり直したい、だけど「I can't explain, you know what I mean」。もどかしい気持ちを表現するのは難しい。思い出さなきゃいけないものがあるのに、それの曖昧な色彩はわかるのに、明確な輪郭がつかめない。きっと、彼らはまたそのときと同じ季節が訪れても、それを取り戻すことはできないだろう。そんな気がする。思い出すことができたのか、それともやっぱり忘れたままなのか、それすらもわからない。なぜならその「わからない」というもどかしさこそが、何かを忘れる、季節を失うということの、紛れもない証左だからだ。まるで、いつの間にか姿を隠してしまった太陽のように、思い出になる前に消えている。そしてまた太陽は昇り沈みを繰り返し、過ぎ行く季節を惜しみながら、ただそこに立ち尽くす。それだけの歌。だからいいのだ。

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