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マッシヴ鍬形アタック

マイルド生活スーパーライト
/ 丹下健太

マイルド生活スーパーライト
さりげなく、良作
 あんまり知られていない作家だと思う。文藝賞を同時受賞してデビューを果たした磯崎憲一郎が昨年『終の住処』で芥川を受賞して一躍脚光を浴びたのとは違って、この人はこの最新作がまだ二作目だし、アマゾンのページとか見てみても、全然売れてる感じじゃない。文藝賞の『青色讃歌』は三十手前のフリーターの話で、作者のプロフィールそのままだった。自分の生きている世界を、限りなく実体験に近いエピソードと実感だけで描く、嫌いな言葉だけど「等身大」すぎる作品だった。定職にも就かずフラフラしていて彼女ともいまいちうまくいっていない三十前後の男の、似たような仲間たちとのグダグダトホホな日常生活。体裁的には三人称の文体だけど、読んでいると一人称の小説を読んでいるみたい。それくらい自分の目と耳と身体で知覚する世界に忠実なのだ。本作でもそれはまったく変わっていなくて、それは作家としてどうなんだろう、成長してないだけじゃないか、挑戦していないだけじゃないか、ということになってしまうんだろうけど、僕はこの人の作風が好きだ。キャラもほとんど描き分けなんてされていなくて誰が誰だかわからないし、適当な箇所をピックアップして読み比べたら前作と本作のどちらか区別がつかない。テーマも両方、これも嫌いな言葉だけどいわゆる「自分探し」というやつで、実際にその言葉は作中に頻出する。一作目と二作目で、まったく同じことを、まったく同じ世界で、まったく同じ言葉で、まったく同じ手法で、丁寧にトレースしたみたい。本人曰く「物覚えが悪い」そうなのだけど、もしかして、自分が前に書いた作品のこと忘れちゃった? と思うくらい、本作は前作と似ている。なんかこのまま続けてたら批判めいたものになってしまいそうだけど、でも、喪失も事件も何もないけど、この人にしか出せない特別な味がある。後ろめたさの、なさだ。笑える余裕があることを、開き直りでもヘラヘラするわけでもなく、ものすごく自然に、受け入れているところだ。それが作者本人をそのまま映し出したような主人公にとぼけた味付けをしていて、面白い。自分の周りの小さな世界を、本当に愛しているんだろうなぁと思う。やっぱり作者の愛を感じない作品は面白くないですよ。それにしてもこのタイトル、前田司郎の『グレート生活アドベンチャー』まんまじゃない? あれもフラフラしてる三十男の話だったよね?

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