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こういうの読むと幸せになる

容疑者xの献身
/ 東野圭吾

容疑者Xの献身
解かれてはいけない愛の数式
 構築と破綻、それを平坦で食い違う「矛盾」よりも圧倒的に深いレベルで掌握して、作者が人間を味わってる。どちらかと言うと、外堀から埋めていった作品なんじゃないかと思う。ミステリーだし、全能的な解決ありきの作品だから当然といえば当然なんだけど、でも話の展開を優先させるために、いくつかの犠牲を払っている印象は否めない。果たしてこんな人間が本当に存在するだろうか、と疑問になるところは多い。というか、存在していいのだろうか、と疑問になるほどに、この作品はその美しさの合間に極端に非・人道的な顔を見せる。僕たちは日頃、「美しい」という言葉を滅多なことがなければ口にしない。滅多なことがあったとしても、口にしない。いやする人もいるかもしれないけど、その対象を前にあまりに美しくない自分を思い知らされそうで、口にしない。「美しい」なんて、非・日常の世界から導き出される言葉だ。そして、この物語は、間違いなく「美しい」。なぜなら、この物語が、謎解きでも、物理学でも数学でもなく、愛の物語だからだ。
 この物語は、決して少なくないいくつかの意味で明らかに破綻している。でも作者がその破綻をも恐れずに強引に筆を進ませた力強さも、ある。だから、この作品を読み終えたときに残っているのは、ページを埋め尽くした理知的かつ論理的な言葉の数々でも、奇想天外すぎるトリックでも、数学者から女性への愛ですらなく、物語に破綻をきたしてしまうすべての登場人物たちへの、作者からの愛だ。こんな人間、絶対にこの物語の中でしか存在を許されない。でもだから、他でもない俺が責任を持ってお前を苦しめてやる悲しませてやるカッコつけさせてやるって、作者は言ってる。これ読んだ後だったら、東野圭吾の作品はどれもそうだったような気がしてくる。彼の物語を支えているのは、ストーリーという表層に現れる言葉ではなくいつだってその根本的な愛だ。だから、読み手を含めた全員が間違いなく敗北しているにも関わらず、こんなにも絶望的じゃない。他の誰にも解くことのできない作者の愛の数式を見た。

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