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2009年ベスト・ディスク4

No Line On The Horizon
/ U2

U2-No Line On The Horizon
真っ赤な嘘、真っ白な愛
 U2がその長きに亘るキャリアで初めて犯した「嘘」。このアルバムは、そういうアルバムだと思う。フロントマンのボノが、ノーベル平和賞の候補者に選ばれたり、アメリカ人でもないくせにオバマの就任式ライブに「ちゃっかり」どころではない存在感で乱入したり、日本の政治家にまで公然と苦言を呈しちゃったりなんかしてることからもご存知なとおり、U2とは、世界の愛と平和、罪と悪意、そしてその真実について、世界中の他のどんなロック・バンドよりも苛烈なステージで、真摯に考察し、対峙し、戦ってきたバンドだ。しかしもちろん、例えば91年の問題作『アクトン・ベイビー』がそうだったように、彼らは必ずしも常に「正しい」バンドではなかった。派手な化粧を施し、わざとらしいほどに偽善ぶっていたあの頃にも、確かに彼らはひどく意識的に嘘をついていた。しかし、その嘘の裏側には、いつだって暴かれるべき悲痛な真実の存在があった。その愚かな嘘の方角からしか抉り取ることのできない世界の残酷な真実が、そこには確かにあった。だからこそ『アクトン・ベイビー』という狂気的な嘘は、ドラッギーな多幸感とは程遠い血塗られた一色で塗りつぶされていたのだ。
 疑わしきもの。そしてそれは彼らにとって、自分たちが唯一の武器としたロックという音楽でさえ、そうだった。83年の傑作アルバム『WAR(闘)』制作当時の時点で、バンドを解散させて、本格的に宗教に救いを求めようとしていたほど、彼らにとってロックという手段は、疑わしき欺瞞以外の何物でもなかった。どれだけ歌っても、どれだけ訴えても、ロックの前で、世界はあまりに強固だった。何も変えられない、導けない、役立たずなロック。そしてそのことが彼らに突きつけたひとつの事実がある。ロックがいつまでたっても疑わしい贋物でしかいられない理由。歌い手が、そもそも最も疑わしき存在だからだ。
 だからU2はこのたった一枚を作るために、こんなにも長い時間を費やしてしまった。どれだけ「正しい」と思えることを歌っても、それを反対側から伝えるために道化ても、彼らのロックにはいつだって、迷い、葛藤、偽善、欺瞞、言い訳、卑屈、喪失、批評、意識、そんな真っ赤な血が流れ続けていた。彼らは知ってしまっていたのだ。自分たちが、世界を正しい方角に導くに値しない人間でしかないこと。血塗られた運命のロックは、世界はおろか愛すべき「あなた」さえ救わない。自分にならできると心底思い込めるほど彼らは無知でもなかったし、そのことに意識的にならざるを得ないほど絶望的なまでに賢かった。
 そして、そんな彼らとまったく同じ場所で立ち尽くしていたレディオヘッドが『イン・レインボウズ』というまったく新しい視座を獲得した一年半後、彼らはこの『境界なき地平』に辿り着いた。ふたつのアルバムが伝えていることはまったくの均等だ。『イン・レインボウズ』は、この一見絶望的に映る世界で、それでも僕たちは虹の真下にいる、という、視覚することのできない「嘘」だった。U2のこのアルバムだって一緒だ。ひたすらに境界線を引きまくり差別することで成り立つこの世界が、実はまったく境界など存在しない場所だった、そんな風景を聴き手に描かせるための「嘘」。そして彼らがここに辿り着くまでの背景には、『パブロ・ハニー』『OKコンピューター』『キッドA』といった、『WAR』『アクトン・ベイビー』といった、絶望の歴史があった。秘められた裏側の悲観があった。それでもU2は歌うのだ。ここに境界はない。この「嘘」には境界がない。裏側さえない。これは完璧に独立した、飛翔した鉄壁の「嘘」なのだと。
 このアルバムで、U2は真っ赤な血を流し続けた自分たちのロックを、そんな「嘘」で真っ白に塗りたくった。そしてそんな、すべての迷いと絶望を振り払った(ことにする=「嘘」)この真新しい地平で、歌うのだ。「僕は君とひとつになるために生まれてきた」。U2(=you too)と名付けられた、そう運命付けられたはずのバンドでさえ血を流しながらでしか歌えなかったその祈りを、今度こそ紛れもない「真実」として心から叫ぶために、彼らはこの『境界なき地平』という真っ白な「嘘」の景色を、裏側の存在し得ない背景を、必要としたのだ。ここに辿り着くまでの彼らの歌には、真実の裏側に常に嘘があり、嘘の裏側には常に真実があった。どちらがいいというものではない。真実と嘘が均等に対立し合う存在として、お互いの足を引っ張り続けてきたのだ。だからそれさえも振り切るために彼らは前人未到の地平から歌う。境界のない「嘘」。裏側のない「嘘」。対立し得ない「嘘」。それはそのまま、ひとつの紛れもない「真実」ではないかと。 

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