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やっと読み終わった

シャイニング (下)
/ スティーヴン・キング

スティーヴン・キング-シャイニング下
あなたは無数の墓場で、起きかけている
 表題となっている「シャイニング」という言葉は、物語の中では主人公一家のひとり息子ダニーの持つ不可解な特殊能力(未来予知とか、読心とか)を示す言葉として使われているのだが、これはすなわち、本来見えないはずのものが見えるということ、不可能が可能に反転する、一瞬の閃光のようなひらめき、触れられないものを一瞬で繋ぎ合わせる直感、ということだ。物語の舞台となる「オーバールック・ホテル」にも、まるで己が生きた悪意だとでも言うかのような、奇妙な力が秘められている。それは、過去にホテルで犯された様々な悪事や惨劇の風景を、突如として現在に復活させるというもの。ダニーが未来を現在に見ることができるのと同じように、ホテルは現在に過去を引き起こす。そして、そんな醜悪なホテルの悪意に取り込まれてしまう父親ジャックについて本作で語られることといえば、もっぱら過去のトラウマティックな出来事ばかりだったりする。僕たちは未来を見ることはできないが、過去を振り返ることならできる。そしてそれが内省と呼ぶには余りに程遠い、救いようのない傷痕をあなたに示すのならば、あなたはその掻き消し難い過去を前に、どこまで平静を保つことができるだろう。死んだはずの過去がゾンビのようなしぶとさで蘇り、あなたの首をギリギリと絞めつける。例えば、音楽という一連の音の羅列が、次々とメロディを背後に置き去りにしていくこと、毎秒ごとに音を失うことと同義であるように、日々を生きる僕たちは、そのつど過去の自分を葬りながら現在を更新していく。幻滅、妥協、猜疑、欺瞞――、でも、完璧に死に切れなかったあの頃のあなたは、いつ蘇ってもおかしくはない。人はいとも簡単に、過去と現在の狭間なんてうやむやにできてしまう。ただ血が滴るから怖いのではない。あなたは自己の中に、これまで無数の墓場を掘り続けてきた。「シャイニング」。瞬きのようなほんの一瞬のきっかけさえあれば、あなたはそこで「あなた」と呼べなくもない朽ち果てた招かれざる客と、対面することになる。

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