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「密室」と呼んだ人もいる

The Shining
Stanley Kubrick-The Shining
世界は迷路でできている
 スティーブン・キング原作スタンリー・キューブリック監督で80年に公開されたホラー映画の金字塔。非常に断片的な映画である。ひとつの結論に向かって世界が収束していく感動というよりも、随所に散りばめられた強烈なイメージが傷跡のような深い印象を残す作品だ。それだけ密度の高い映画だということであり、本作がただショッキングなシーンが繰り返されるだけの凡百のホラー映画と決定的に違っているのは、その数々のイメージのすべてが、本作の描く世界観を構成するひとつひとつの本質的要素であるという奇跡的なまでの綿密さなのだ。だから、観るたびに新しい発見、それも「何度観ても面白い」という漠然としたカタルシスなどではなく、戸惑うほどに具体的な世界の断片を毎回提示してくれる極めて稀有な作品なのだ。
 そのひとつを挙げてみる。雪山の中に建てられたホテルという閉ざされた設定、つまりは、世界のすべてをそこに詰め込むという強引な試みである。そして、そのホテルの名前は「Overlook Hotel(=展望ホテル)」であり、本作の奇妙な空気感を演出する重要なファクターのひとつとしてホテルの隣に造られた巨大迷路があるのだが、これ見よがしにその迷路の「Overlook Map(=展望図)」が映し出されている。それがいったいどういうことかと言うと、これは本作における閉ざされた「ホテル=世界」そのものを展望しろという示唆でありそこに迷路というねじれた価値観を重ね合わせてみろという暗示である。主人公一家がホテル内を案内された時の「まるで迷路みたいね」というさり気ない一言までもが研ぎ澄まされた意思のように思えてくる。そして、本作がまた通常のホラー映画と一線を画しているのは、ここに映し出される恐怖が、決して人間の言質が及ばない霊性としてではなく、人間の心の奥底に根ざした狂気として描かれていることだ。正気を保ち続ける限り、僕たちは世界という巨大な迷路の入口と出口を最短距離で正しく繋ぐことができる。しかし、出口へと続かない間違った通路に足を踏み入れてしまった時、その先に待ち受ける行き止まりで立ち尽くしてしまった時、僕たちの狂気はついに現出する。「REDRUM(=MURDERを逆転させたアナグラム)」と書かれたこの扉がすべてを語っている。僕たちは、いつもの通りを、扉を、たまたま逆方向に、いつもと違う方向に進んでしまうというただそれだけで、「REDRUM(=殺すな)」という正気から「MURDER(=殺人)」という狂気へと豹変してしまう。世界という迷路には、僕たちを決して出口へと導かない分かれ道や行き止まりが至る所に用意されている。狂気への入口は、いつだって正気という僕たちの日常のすぐそばで大きく口を広げているのだ。


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