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09年、この一枚

誰が大統領で、どんな宗教があって、
自分の愛する人が誰と寝ているのか。
そんなものさえも置き去りにしてしまっている。

対峙すべきすべてを失って生きるということは、
こういうことなのかもしれない。

ロックを聴いて、初めて、消えたいと思った。
死にたいとは言わない。

“ホワット・ハヴ・アイ・ダン?”
これを聴かないで、いったい何を聴けと言うのか。

Mama, I'm Swollen
/ Cursive

Cursive-Mama Im Swollen
僕は笑いながら堕ちていく
 人と人とが関わり、すれ違う狭間に生じる饐えた感情をテーマにした『ドメスティカ』『アグリー・オルガン』という二枚の傑作を経て06年の前作『ハッピー・ホロウ』ではその向かい合う他者の延長線上にアメリカという余りにも巨大な世界を捉えたカーシヴ。そこから実に三年の月日を越えて発表された最新作である本作『ママ、アイム・スウォールン』で、カーシヴの歌からついに「君」が消えた。“ドンキーズ”のような気まずい夫婦のやり取りのようなダイアローグも残されてはいるものの、カーシヴがこれまで歌い続けてきた他者と関わることでこそ発生する絶望や嫉妬や幻滅といったドス黒い感情が、「もう君を愛することはできないんだ」という有無を言わせぬ「君」への拒絶によってほとんど消え果ている。そして、「君」という身近な他者を通して遠くの世界を射抜いたカーシヴの言葉が行き着いた最果てが、「僕」である。そこには、宇宙という無限の彼方のその先に待ち受けているものが人間の想像力だというキューブリック監督映画『2001年宇宙の旅』の圧倒的な帰結と通じるものを感じる。すなわち、「君→世界→僕」という一連の流れは脈絡の欠落による突拍子のなさではなく、見事なまでに連続した物語なのだ。そしてだからこそここにはすべてを通過した後にこそ残る深みが確かに横たわっている。
 ティム・ケイシャーは本作を製作する過程で、これまでになく「死」を強くイメージしたという。「今というこの時代に存在したくない」から始まり「間違いなく地獄行きだ」とうな垂れ「俺は何をしてきたんだろう?」と虚空をむなしく撫でるように終わるこのアルバムは、今すぐにでも自殺してしまうのではないだろうかと思わせるほどに暗く、ネガティヴだ。このアルバムを聴くと、カーシヴにとっての他者とは、ある意味では言い訳であり逃避だったのだろうなと思えてくる。つまり、それは、己の絶望の理由を他者に押し付ける行為だったのだ。そして、だからこそ前作で世界を暴いたカーシヴが本作で「僕」という自己を標的にしたのは当然の成り行きだった。すべての他者を拒絶し、たったひとりで終わらせた世界の中では、意識と言葉が執拗に自己を責める。そんな閉じた風景を強烈に印象付けるのが最終曲の“ホワット・ハヴ・アイ・ダン?”。この歌を聴く必要のない生活を送っている人を羨ましく思う。僕なんかは、正直な話、涙なしには聴けないけど。
 でも絶対に間違って欲しくないのは、こんなアルバムですら、自殺を肯定できないということ。作中でも「血のように赤い太陽の下で生まれた」と歌われるこのアートワークに描かれた異様な太陽は、実は卵の写真なのだ。血を流す卵。それは部品の足りないプラモデルのようなものだ。完成する前から欠陥品。生まれる前から間違っている。カーシヴは、本作を通じて、そんなイメージを強引に自己と重ね合わせようとしている。僕たちが永久に満たされないのは、つまり、僕たちが生まれる前から傷つき、血を流していたからだと。しかしだとすれば、やはり完璧な絶望などあり得ない。僕たちが根本の部分から間違っているのなら、絶望だけが完結した存在であるわけがないのだ。しかしだからこそ僕たちは苦しい。地獄でさえ甘いからこそ僕たちは苦しい。完成されないから、終われないからこそ辛いのだ。地獄が甘いものである限り、僕たちは永久に「今、ここ」よりも更に救いようのない場所へと堕ちていくことができる。そうやって、それでもまだ生きていくことができる。カーシヴが本作で歌っているのはそういうことだ。ティム・ケイシャーは“ホワット・ハヴ・アイ・ダン?”の中で、終わらない自問自答を繰り返し、自己の存在意義を確実に希薄にさせながら、狂ったような高笑いを上げる。その先に希望があるかどうかなんてわからない。そことは最後の最後まで向き合わない方が良い。

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