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エミネム、再発

Relapse
/ Eminem

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嘘の中の真実
 エミネムの表現の持つ生々しさとはつまり、リリックに込められた濃密なパーソナル性である。自分の半径5メートル圏内に横たわるものだからこそ切実になれるテーマと、その切実さ故に海をも越えた世界中のリスナーの心を射抜くことができるという究極のパラドックスである。オリジナル・アルバムとしては04年の『アンコール』以来実に5年ぶりの新作となる本作でも、母親や愛娘やドラッグといった身近な現実を取り上げつつも、多くの著名人に向けてゲップと放屁を繰り返し自ら不愉快極まりないマッド・ピエロを演じることで、現実でしかない私情でさえもエンターテインメントに押し上げて普遍性を獲得してしまうその唯一無比の手法は鋭さをまったく失っていない。しかし、個人主義は当然のように全体から疎外され、圧倒的なまでに孤立する。オバマが大統領になろうとも、アニマル・コレクティヴやフリート・フォクシーズがどれだけ音楽の向こう側に桃源郷を映し出そうとも、まるでそんなものは俺には関係ないとでも言うかのように、息を吸って吐くように次々と生み出される狂気の数々。エミネムの歌は、やはり相変わらずエミネム対世界という限り無く勝ち目のない崖っぷちへと彼を向かわせている。それでもエミネムは再びマイクを握り締め、「他人に『お前なんか美しくない』なんて言わせんな。他人なんてクソ喰らえ。ただ自分に正直であればいい」と歌うのだ。年内には『リラプス2』と題された続編が早くもリリースされる予定だという。『アンコール』~『カーテン・コール』という舞台の絶対的閉幕後に披露される『リラプス(=医学的・病理学的な意味での「再発」)』とはいったい何を意味するのか。俺の怒りと悲しみは永久に終わらないとエミネムは歌っているのだろう。ファンはリード・シングル“クラック・ア・ボトル”発売一週間ダウンロード数最多記録という熱狂でひとまずエミネムに応えた。たったひとりの人間の狂気が世界中に感染し得る事実と彼がそうならざるを得なかったことの根底に眠る更に巨大な本物の狂気こそ、世界は真剣に恐れるべきなのだ。

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