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鬼才

lars fon
ラース・フォン・トリアーという映画監督は、
「ドグマ95」だなんて映像に関する面倒な原則を唱えているだけあって、
やはり「映像の人」である。

そんな彼の「アメリカ三部作」と呼ばれる
『ドッグヴィル』『マンダレイ』(完結の三作目は現在制作中)は、
まるでステージの上で行われる演劇やミュージカルのように、
作り物のセットが配置され、そして、家には壁や扉がない。
役者はその世界の住人として、自然とパントマイムで動作を行うことになる。
町の外の世界は観ている者の想像力次第だとでも言うかのように、
町の外の風景は果てしない黒、もしくは果てしない白で統一されている。
あらゆる壁や障害物を排除して奥行きを獲得したかのようなその世界は、
しかし、実際に壁や障害物がある世界以上に、閉ざされた空間を演出している。

その壁のない世界では、
女がレイプされる屋内と幼い子どもが集まる通路とが、
やはり壁で遮断されることなくひとつの空気と臭いで繋がっている。
ラース・フォン・トリアーという人は、
その通常相容れないふたつの空間を、ひとつの絵画のように、
同じ画面に映したがるどうしようもない人なのだ。

ラース・フォン・トリアーの映像は、やはり世界を暴きすぎる。


Dogville × Manderlay
Dogville.jpg manderlay.jpg
暴かれる正義
 友達百人できるかな。積極的な国際交流。せっかく外の世界に踏み出すんだから、できるだけ多くの人と仲良くなった方が良い。大人はそんなわけのわからない美徳と呼ばれる理屈をよく口にする。僕はあいにくうまくやれなかった。初対面の人と上手にコミュニケートするフリをすることは、意識的にはできる。結構うまくやれる方だと思っている。でも、その始めの段階を経た結果として、友人だと思っていた人の数が減らなかったことは一度もない。大学生活に至っては激減ともいえるレベルである。自然、内向的な人間になる。友人は減る一方自分は閉じる一方のそんな僕の在り方は、客観的に見なくても、結構救い難い。
 何故かはわからないが、大人は閉じてしまった人間の心を見ると何が何でもそれをこじ開けようと試みる一種の性癖にも似たやっかいな特性を持っているようだ。密室殺人に遭遇した名探偵にでもなったつもりだろうか。違うのだと僕は言う。開放的になることと閉鎖的になること。そこには差など1mmもないのだと。開放的でも閉鎖的でも、そこに何らかの差異を設けてしまった時点で、どちらかを意識してしまった時点で、どちらかに傾いてしまった時点で、その心はすでに「閉じている」のだと。開放的という開かれた言葉に固執することで、その思考はすでに頑ななまでに「閉ざされている」のだと。その時の開放的・閉鎖的はまったく同じ情報量と距離によって存在しているのだと。開放的とは閉鎖的と同等に救い難いのだと。うまくやれなかった自分を正当化するための卑屈な屁理屈だということはわかっている。理解してくれた大人なんてひとりもいない。優しさ、平等、積極性、フレンドシップ。正義はやはり正しくなくてはいけないから。
 そしてそう、人の思考は正しさでも間違いでもとにかく何かひとつに固執したその時点で、否応無しに立ち止まる。人間は考える葦である、と初めて言った人を僕は尊敬する。葦とは根茎を地中に這わせて成長するイネ科の多年草である。なぜ虫や動物や風ではなく文字通りの根強い根っこを持った多年草の植物だったのか。人は、考えながら、どうしようもなく立ち止まっているからだ。開放的になろうとして、自らを閉ざしてしまっているからだ。葦は茎を空に向かって数メートルにまで高く伸ばす。しかし、彼らはやはりどこにも辿り着けはしないのだ。それでも葦が何年にも亘って繰り返し茎を伸ばし続けるように、僕たちはやはり考えずにはいられない。優しさ、平等、積極性、フレンドシップ、そして正義、それらの正しさについて。とんでもない矛盾を孕んだまま、それでも僕たちは生きている。
 ドッグヴィルとマンダレイ。ふたつの小さな集落を蹂躙した偉大なる正義の正しさ。ふたつの作品のクレジットでは、デヴィッド・ボウイの“ヤング・アメリカン”にのせて、自由と平等に固執した国アメリカに集結した矛盾の表出とも言える貧困、暴力、差別、ブッシュ、そして死が、実に生き生きと表現されている。正義の名の下に行われたイラク戦争はまさに火を見るよりも明らかというやつのまたとない実例だったのに、大人はいったいいつになったら認めてくれるんだろう。大人が正しいと信じたがっている多くのもののその先に通じているのは、結構な確率で袋小路の行き止まりだというのに。
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