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慟哭の果てに

貫井慟哭
プロフィールには、好きな作家として野沢尚を選んでいますが、
もしお前の「この一冊」を選べと言われたら、僕はきっとこの作品を選ぶ。
貫井徳郎の、『慟哭』。
この作品がなかったら、僕は本を読むなんてめんどくさいことは始めなかったかも。
健全な内容の作品ではありません。
初期の彼の作品にあるのは、ただなす術もなく放置された、絶望だけです。

貫井徳郎の作品は全部持っているつもりだったけど、
一冊だけ持っていない作品を見つけてしまって、早速買った。
本当はテスト勉強したりレポート書いたりしなきゃいけないのだけど、
もはやそれどころではなくなってしまった。
現時点での彼の最新作のようです。
『夜想』。

この読後感をいったい何と言ったらいいのか。
何も見えない果てしない闇の中で、
それでもたったひとつだけ信じられるものの存在を隣に感じるような、
頼りないけど、とても、力強いもの。
そうだ。
これは希望だ。
今「この一冊」を訊かれたら、『夜想』、と答えるのも悪くないかもしれない。

夜想
/ 貫井徳郎

貫井徳郎-夜想
慟哭したかつての自分を心から祝福できたとき
 本人の証言なしにこんなことを言うのも失礼な話だが、貫井徳郎は不幸な作家だった。彼は、どの表現世界にも必然的について回るジンクスにやはり絡みとられてしまった作家だった。読み手の心を厚く重い暗雲で覆いつくすような独特の世界観を持った問題作『慟哭』で衝撃的なデビューを飾って以来、良質な作品もいくつか発表してきたものの、彼は『慟哭』の「その次」を描けない、デビュー作を超えられない作家だった。あえて最悪の読後感を目指したという『愚行録』や近年ではこれまでと違った軽妙な空気感の作品など試行錯誤の見られるものも発表しているが、そこにはどこかエンターテインメント作家としての開き直りのようなものを感じずにはいられなかった。軽妙さはひとつの作品が内包する本質的な明るさや希望とは程遠い、文字通りの「軽さ」と捉えられてもおかしくないものだった。『慟哭』が生み出した圧倒的な闇は、いつしか貫井徳郎のキャリアそのものまでも飲み込もうとしていたのだった。
 でもだから、だからこそ本作には貫井徳郎という作家の新章の幕開けを感じずにはいられない。デビューから14年、『慟哭』とまったく同じ宗教テーマ、まったく同じ手法で書かれた本作は、長かった闇の出口に彼がついに辿り着いたことを明らかに告げている。何かを狂信的に信じるということがいかに人を狂わせていくのか、それを、狂気の侵食がいつから始まったのかまったくわからないほど巧みに描く構成力。なかなか関係性の見えてこないふたつの別々の物話が平行したまま同時進行し、両者が光の速さで交錯する瞬間に読み手を襲う戦慄。それはどちらとも彼が『慟哭』一作のみで決定的にした貫井印のトリックだ。途中までは僕も「『慟哭』の二番煎じか?」などと思っていた。しかし、『慟哭』の信じるが故の絶望は、ここでついに「自分を救うのは自分でしかない」という宗教の本質にまで見事に昇華されている。そう、自分が無心に信じるものでさえ自分を救ってくれなどしないからこそ、僕たちは自分自身を救えるのだ。それは紛れもなく、すべての悲しみを通過した者だけが立つことのできるポジティヴィズムという新たな地平である。居心地の良い絶望感なんて欺瞞に過ぎない。明けることのない夜なんてどこにもない。そんな一筋の光を読み手の世界にもたらすことこそが小説にできる最大のエンターテインメント性ではなかっただろうか。これはきっと忘れられない一冊になる。
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コメント

#
私もメッチャ読んでみたいです!!!
宗教かぁ~

どんな宗教があって、その歴史とか生い立ちとか日本との関わり合いって感じの本は読んだことがあるのですが、
小説で宗教を題材にしたものは読んだことが無いので、是非読んでみます!!!

忘れられない一冊…
素敵ですね☆
by: hisako | 2009/02/04 01:40 | URL [編集] | page top↑
# hisakoさんへ
どうやら「オウム真理教以降」ということを意識した作品のようなので、
宗教といっても多分に胡散臭さを含んだものになっています。
空気感は決して健全なものではありませんし、
趣味に合うかどうかはわかりませんが、
でもそんな方面から読んでみるのも面白いと思います!
是非とも『慟哭』とご一緒に。笑

楽しんでいただけたら嬉しいです!
by: 幸大 | 2009/02/05 00:31 | URL [編集] | page top↑

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