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エレベーター・ミュージック

The Information
/ Beck

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魂は情報なんかに負けない
 『ミューテイションズ』に『シー・チェンジ』というベックにしては比較的おとなしめな作品でこれまで共演してきたナイジェル・ゴッドリッチの「ヒップホップ・アルバムを作ろう!」の一言から始まった本作だが、ヒップホップを原型としながらもそこからくねくねと派生して最終的にベックらしい異型ロック・ミュージックとして仕上がっている。しかし歌詞の方は内省的、というか案外シリアスで、本作のキモはやはりそちら側だと思う。
 三曲目の“セルフォンズ・デッド”が好きだ。ベックの楽曲の風景には彼の故郷であるロスの街並みが設定されていることが多い。しかも、懐かしさではなく変わり果てた故郷に対する批判的な視線で描かれることの方が、圧倒的に多い。開発の波に呑まれ急速に都市化が進められ、摩天楼が天に向かって屹立し、大都市として象徴的な街にまで発展した故郷に実際に思いを馳せながら作った楽曲かどうかはわからないが、「携帯電話が通じない。僕たちは砂漠で途方に暮れている」と歌い、携帯電話がないだけで不安に駆られ孤立したような錯覚すら覚えかねない現代社会の在り方に強く訴えるこの曲の風景は、そのままロスの街並みと重ねることができるだろう。同じ曲の中で、ベックは「10セントでジュークボックスが心の鏡みたいに鳴ったのは遥か昔のこと」とも歌っている。今じゃもう10セントぽっちの金で夢を買うことなんてできやしない。このままで良いのか? 開発と発展を繰り返して僕たちの生活は確かに便利になったかもしれない。でも、その代償として失われたものは余りにも大きすぎやしないか? ベックはアルバム全体を通して、そういった目に見えない切ない価値に対して余りにも意識の希薄な現代社会に意義を申し立てていく。『シー・チェンジ』はもちろん『グエロ』もその表現の向かう先は突き詰めればベック自身に行き着くような印象があったが、本作からその矛先は世界へと移行し、それが最新作の『モダン・ギルト』へと引き継がれていくんだと思う。
 そういえば、本作のジャケットは方眼紙に同封のシールを自由に貼って買い手が世界にひとつのオリジナル・ジャケットを作れるというなんともベックらしい茶目っ気タップリの面白いアイディアが採用されているのだけど、アマゾンの中古販売で購入した僕の本作のジャケットには、前の持ち主が喜々として作ったのであろう見事なまでのカオスを体現した恐ろしく奇抜なデザインがすでに完成されていた。自分で作れなかったのは残念だけど、ここには前の持ち主とベックとの間接的だけど濃密なコミュニケーションがあったんだろうなあと思う。もしベックがこれを見たら、「な? 僕たちを繋いでいるものは携帯の電波とか電子化されたメッセージなんかじゃないだろ?」と笑ってくれるような気がして、僕にはそれが何よりも嬉しい。
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