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汽車に乗って

汽車に乗って(初回生産限定盤)(DVD付)


YUKIの新曲とロックの本質的な意味について
 僕が毎月買っている雑誌の古い号に、面白い記事が載っていた。今は手元にないので正確な言葉ではないかもしれないが、「思い切りポップに振り切る」ということは、「あっちの世界」を覗きこむ「背徳感」なのだ、と。つまり、ポップの世界は僕とあなたが呼吸をしているこの世界とは全く別のところにある、ということだ。だからこそ極端なポップネスには僕たちの生活の暗さを反映する気のない過剰な陽気さがあるし、それが同時に危険な中毒性にもなり得る。雑な例えだが、ドラッグと似たようなものだ。これに僕の意見を少し加えるなら、ポップに「共感」はいらない、ということになる。ポップが「あっちの世界」のものならば、ポップには「こっちの世界」の感傷を背負う義理など全くないのである。
 そして、ここ最近のYUKIの楽曲はまさにそれだった。なんせ“ビスケット”に“星屑サンセット”に“ワンダーライン”である。タイトルからしてすでにYUKI特有の浮遊感が漂っているこの抽象的な楽曲たちに感じられる「共感」は少なかったと僕は思う。そこにもちろん批判の意味はなくて、これらの楽曲には浮遊感を増して「あっちの世界」へと飛び立っていくYUKIに対する「憧れ」のようなものが強かった、と言いたいのだ。“ワンダーライン”はそれを象徴する曲だった。ぶっとい虹のような摩訶不思議な線が、YUKIと「あっちの世界」を鮮やかに繋いでいた。最近のYUKIの楽曲に僕が感じていた気持ちの高ぶりの理由は、きっとそれなんだと思っていた。
 それがここにきて“汽車に乗って”である。“汽車に乗って”。余りにも具体的である。函館から上京した時のYUKI自身の気持ちがベースになっているらしいが、成り立ちからしてこの曲はハッキリしている。それはYUKIが遠い昔に経験した、紛れもない「こっちの世界」のものだ。入学・就職がひと段落着いたばかりのタイムリーな時期に発表されたのはただの偶然かもしれないが、今この曲に胸を打たれる人は結構多いのではないだろうか。それは、「共感」以外の何物でもない。牧歌的なアレンジやマンドリンなどの新しい要素も含まれているこの曲だが、手触りや強度という点においてはここ最近の楽曲たちと地続きのものである。でも、僕がこの曲を聴いて連想したのは“ビスケット”でも“星屑サンセット”でも、もちろん“ワンダーライン”でもなく、『commune』であり、そして『PRISMIC』だった。

 言うまでもなく、YUKIは弾けるポップネスをお菓子箱みたいに詰め込んだ『joy』の成功によってキャリアの第二の頂点に上り詰めた人だ。しかし、この人のソロとしての第一歩目は、『PRISMIC』という地味なアルバムである。そもそもがJUDY AND MARYでキャリアをスタートさせた人なのだ。なんだかんだ言いながらも、日本のマーケットでは陽気なポップさが強い力を持つことをYUKIは知っているはずだ。それでも彼女には『PRISMIC』を作る必要があった。それを物語っているのが、このブログでは何度も繰り返し主張している最終曲“呪い”のラスト一行である。歌い続けるための「もう歌えないわ」。YUKIは、『PRISMIC』でもはやバンドの一員ではない「今、ここ」の自分をいったん対象化しなければ前へ進めなかった。「もう歌えないわ」は決してネガティヴな響きを持たずに、続くセカンド・アルバム『commune』の外の世界と関わる勇気へと発展し、準備の整ったYUKIは『joy』で迷わず勝ちにいった。
 YUKIの表現はいつもまず「自分」から始まる。いきなり「あっちの世界」へ踏み出そうとはしない。まずは「自分」をどうにかこうにか見つめ直して、それから前へ、とにかくポジティヴな方向へ進み始める人だ。長男を病気で亡くした後の“joy”ツアーで、「joy」と「pain」という文字の書かれたTシャツを着て、アンコールで目に涙を浮かべながらのMCの後に歌った“ドラマチック”が印象的だ。

 僕は、いつも居心地の悪い「違和感」を抱きながらYUKIの音楽を聴いている。YUKIの表現は、彼女の生まれ持った可愛さやそのオシャレな雰囲気ゆえにそこばかりに議論が集中してしまって、ファンからでさえ過小評価されやすい。“汽車に乗って”はYUKIが過去に上京した時の思いを歌っているから素晴らしいわけではない。もちろん、YUKIの歌声が可愛いからでもない。シングル・コレクション『five-star』や映像作品の『ユキビデオ2』、『YUKI LIVE “5-star”~』など、ここ最近のYUKIはこれまでの自分を総括する作業に入っている、と少し前から考えていたのだが、それに“汽車に乗って”が加わると僕は非常に感慨深い。YUKIは、再び「こっちの世界」から「自分」を見つめ直そうとしている。そして、それはただ単に過去に思いを馳せるだけではなくて、YUKIが更に前へ進もうとしている証である。「汽車」は、YUKIを乗せていったいどこへ向かうのか。もう少し作品を重ねれば、その答えは見つかるかもしれない。

 もうひとつ、僕は「違和感」を抱えながら音楽を聴いている。もう何年も音楽を聴き続けてその正体について考えるけど、未だに答えの見えない、途方もない自問である。それはつまり、ロックとは、それを聴くとは、いったいどうゆうことなのだろう、ということである。時々友達に「ロックって何なの?」と聞かれるのだが、僕はずっとうまく言葉にできないでいる。「ああじゃない・こうじゃない」という否定形で語ることはできるが、それではいったい何なのか。
 それを、僕に何となくでも教えてくれたのがYUKIの『PRISMIC』だった。そして、“汽車に乗って”を聴いて、僕は強く思う。ロックは、他でもない「自分」を見つめ直す手段である。YUKIが何かを始める時、いつも「自分」を音楽に託すことから始めているように、僕たち聴き手側はその音楽に「自分」を託している。その音楽はいったい「自分」のどこに繋がりを求め、そこから何を引き出そうとしているのか。ロックを聴くということは、そこから引き出された何かを認める行為である。そこにある「自分」の断片を認め、そこから「自分」が始まることを、前に進めることを認める行為である。それは時に、個人的な思い出をめくることと紙一重だ。それはYUKIが歌う時にも同じことである。それでも、“汽車に乗って”という思い出をめくりながら、YUKIは前へ進もうとしている。僕も前へ進まなければならない。ロックがいったい何なのか、具体的にはまだわかっていない。それでも、YUKIの表現にはロックの本質があると、僕は信じている。
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20:09 | コラム | comments (8) | trackbacks (0) | page top↑
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コメント

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読ませていただきました。
ビスケット・星屑サンセット・ワンダーライン。
確かに、共感という言葉は無かった気がする。
うまくいえないけど。

きらきらしている、けど触れないものだった。

汽車に乗って。ねぇ。

何度聴いてもしあわせな気持ちになれます。

戻れない過去をただ懐かしく思っているのではない。本当に次に向かってる歌だな。と。

炭酸の抜けたレモネードの味です。



勝手な解釈です笑
by: まほし☆ | 2008/04/15 21:38 | URL [編集] | page top↑
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ありがと~!

そう、感覚的にはそんな感じ。
ここ最近のは曖昧にぼやかして、形を大きくすることで「普遍」に接近していってた印象が強い。

YUKIが作品を出すことは、常に『PRISMIC』と向き合うことやと思ってて、“ビスケット”~“ワンダーライン”の流れで行くなら次のアルバムでYUKIは完全に『PRISMIC』を振り切るなぁ~とか考えてたんやけど、わからなくなってきたなぁ。でも絶対に次のアルバムは良いよ。
これは俺の勝手な解釈です笑

いつも気になるんやけど、レモネードって炭酸入ってるの??
俺のレモネードのイメージ、ものすごく温かい飲み物なんやけど・・・・・・
by: 幸大 | 2008/04/16 01:38 | URL [編集] | page top↑
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炭酸はいってないの?

はいってないかも…笑

はいってたような気もするし。はいってないような気もする!

あたしのイメージはめっちゃ冷たいやつ☆

ホームステイ行ったのが真夏だったからかなぁ…



by: まほし☆ | 2008/04/16 12:59 | URL [編集] | page top↑
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さっきまでおっ○んとほー○ーと部室でスマブラしてた笑

なんかウィキで調べたら炭酸入ってるのも入ってないのも、
冷たいのも温かいのもあるみたいよー!
国とか地域によって違うみたい。
冷たくて炭酸入ってるの、飲んでみたいなー!
by: 幸大 | 2008/04/17 14:45 | URL [編集] | page top↑
#
こんばんは。前回までの曲調とは一転して、温かみのある曲ですね。次のアルバムはどんな風になるのかが気になってます。あとHNを大文字に変えてます。
by: YUMA | 2008/04/20 00:46 | URL [編集] | page top↑
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こんばんは!
そうですね、次のアルバムは本当に楽しみです。
前作の時は、シングルの時点で「詰まり」がある程度顕著でしたが、今回は今のところ『commune』期ばりの出来じゃないですかね。とにかく待ち遠しいです。
大文字ですね。はい、覚えておきます!
by: 幸大 | 2008/04/20 01:51 | URL [編集] | page top↑
# これよんでいいのかな
あむりと、と申します。YUKI検索でTOPページからこちらを拝見させてもらいました。さすがJAPANに掲載され批評ですね。
PRISMICで己に問いかけ、COMMUMEで扉をあけ、JOYで勝ちに行く、というくだりは唸らされました。
呪いから数年また自己に帰って来た彼女ですが、波乱に満ちたこの年数をどう鳴らすのか楽しみです。

掲載も楽しみにしてますよ。
この文章のちからはです。
by: あむりと | 2008/05/08 21:20 | URL [編集] | page top↑
#
あむりとさん、初めまして!
掲載、ものすごく嬉しいんですけど、なんだか同時に不安にもなります。
僕の書いたものが、通用するんだろうか、と。
それでもこれからも送ってみようと思っています。

これからのYUKIは本当に楽しみですね。
『PRISMIC』以来、ついに「眠り姫」が目を覚ます時が来るのでしょうか。
もう準備は整ったはずです。

嬉しいコメント本当にありがとうございます。
良かったらまた遊びに来てくださいね!
by: 幸大 | 2008/05/09 01:30 | URL [編集] | page top↑

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