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すげえ

19
/ Adele

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世界をも突き動かす「喪失」の力
 リリー・アレン、エイミー・ワインハウス、ケイト・ナッシュにM.I.A.とここ数年のUK女子力の勢いは留まるところを知らないわけだけど、この大型新人・アデルの登場で更に熱いシーンへと盛り上がるのは確実だ。今年最初の決定打。08年は、今、アデルと共にようやく始まったのだろう。
 世界で最も多く歌われているのは間違いなくラブ・ソングだと思う。そして、ラヴ・ソングが語るテーマは大きくふたつの種類に分けることができる。つまり、「成就」と「喪失」である。アデルが歌うラブ・ソングは、極端に後者へと振り切れる。収録曲のほとんどがひとりの元カレへと向けられた余りにも個人的なエモーションの塊という本作。すでに人生投射型とかそんなレベルの話ではない。アルバムを別れた相手への純度100%のノンフィクションで埋め尽くしている。その元カレの立場になったら、人によっては重苦しくてちょっとしんどい女の子に感じてしまうかもしれない。でも、その重さはきっと彼女の実直さの裏返しだ。そして、同じ特定の「あなた」への思いでも、いつも隣で笑っていてくれる「あなた」へのそれよりも、もう去ってしまってからの「あなた」への方が狂おしいぐらいに強烈な時だってある。この恋愛の奇妙な矛盾をわかっていただけるだろうか。それこそがアデルの歌う「喪失」の力だ。
 「喪失」の力は、気持ちは「あなた」の方角を示しつつも自ずと内向きに作用する。なぜなら、「あなた」はもう傍にはいないからだ。彼女は「喪失」が生み出した心の空白に「あなた」を呼び戻すために、ここにあるラブ・ソングを歌う。“チェイシング・ペイヴメンツ”を歌う。その時心に現れる「あなた」は、自分が作った言葉と妄想に過ぎないとわかっていても、である。自分の実年齢をそのままアルバム・タイトルに冠しているが、これを歌わなければ彼女は10代を終わらせることが出来なかった。ただそれだけだろう。
 アデルの楽曲モデルは極めてシンプルだ。背景にあるのは伝統的なジャズやブルース。現代的な要素はひとつもない。それは特定の「あなた」だけを標的にした彼女の歌が「今」という時代の必然性に寄り添う必要がまったくないからだ。それは同時に彼女のラブ・ソングが極めて個人的な内容であるにも関わらず高度な普遍性を持っているという証でもある。加えて、声がとてつもなく良い。アダルトな知的さと感情の上気・綻びを同時に表現してしまう磨き上げられた歌声。これは間違いなくUK女子最高峰だ。奇跡的なバランスで立ち上がっている。その歌声だけでもこの少女がどれだけ稀有な才能の持ち主かは明らかだ。
 本国イギリスではすでにアルバムは1位を獲得、昨年はMIKAが選ばれたBBCの「サウンド・オブ・2008」でも堂々の首位。08年を牽引する存在としてすでに認知されているようだ。今、若干19歳の少女が世界を揺り動かそうとしている。この瞬間を、絶対に見逃してはいけない。
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