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No.3

No.3
Icky Thump / The White Stripes
Icky Thump



アメリカを再構築するロック
 07年のアメリカのロックは、まるで示し合わしたかのようにみんなアメリカに生きる危機感を叫んでいた。僕の選んだ50枚の中でも、ビョーク、ブライト・アイズ、モデスト・マウス、アーケイド・ファイア、サム41などが特にそうだ。そして、事実として、そういうロックがチャートを掻き回し、強い勢いを示した1年だった。特にブライト・アイズとモデスト・マウスの躍進ぶりには目を見張るものがあった。なぜなら、作品に特にドラスティックな変化がないからである。これまでと同じようにストレスフルな世界・アメリカを歌い、これまで以上の支持を獲得したのである。ついに受け手が彼らに追いついた証拠だ。アメリカ国民の自国への意識は変わりつつある。アメリカの足元は確実に揺らぎつつある。
 そしてこいつら、ホワイト・ストライプスである。07年、世界にアメリカの異常さを訴えかけた多くのバンドがやり過ごしてしまったこと、それをただひとつやってのけたのがこの『イッキー・サンプ』というアルバムである。9.11以降、多くのバンドがアメリカの危うさを発信し、足元を揺らし続けてきたが、このアルバムはその足元よりももっと奥深くに働きかけた作品である。それが故に、アメリカという国家のアイデンティティーさえもぶち壊しかねない危険な作品である。だが、そこにはホワイト・ストライプスだけが到達した、ただひとつのアメリカへの「希望」が残されているのだ。

 ホワイト・ストライプス史上初めて近代的なスタジオでレコーディングが行われ、これまでで最長のレコーディング期間が取られ(それでもたったの3週間!)、ボーカル+ギター+ドラムス+その他楽器という基本構造から大きく跳躍して自由度を高めた、通算6作目にして初の大きな転換作としても重要なこのアルバム。ブルースという過去の遺産から現代に通用する要素を部分的に取り上げ、タイムレスなロックを作り上げるという基本方式は変わっていないが、音の質感がこれまでになくクリアになったこともあってギター/ドラムスの鋭さや凶暴性はまるで破壊神のごとき強烈なパワーを獲得している。彼らの場合、以前から成分表示など無意味だったが、ホワイト・ストライプスがガレージ・ロックなんていう矮小なタームでは語れないバンドだということを物語る見事なサウンドに仕上がっている。
 そして、ここからが最も重要なのだが、彼らはこのアルバムで「移民」というテーマを一貫して取り上げている。実はこれ、彼らにとっては極めて画期的な試みなのだ。ホワイト・ストライプスは、これまで常に不思議のベールに包まれたような存在だった。「わからない」ということが、つまりホワイト・ストライプスということだった。今だってジャックとメグの本当の関係すらわからない状態だし、このバンドにまつわる謎は未だ多く残されている。キャリアをさかのぼってみても、ひとつの作品で明確なテーマを打ち出し世界に働きかける、なんてことは一度もなかった。明らかに他とは違うサウンドを鳴らし、どこか浮世離れした雰囲気を纏っているが、正体は誰もわからない。それがホワイト・ストライプスだった。だが、このアルバムはあまりにも明確である。明確に「移民」について歌っている。そして、それは彼らがこれまで行ってきた音楽活動の答えとして鳴っているような気さえする。つまり、ブルースとはアメリカで生まれた黒人音楽である。アフリカから奴隷としてアメリカの大地に連れてこられた「移民」の音楽である。いや、そもそもアメリカという国はどうなのかという話だ。極少数のアメリカ先住民を除けば、現在アメリカ国民と呼ばれる者のほとんどがユーラシア大陸・アフリカ大陸からの「移民」である。俺たちは本当に「アメリカ人」なのか?そもそも「アメリカ人」っていったい何なんだ?「アメリカ」という国家は本当に存在するのか?このアルバムで彼らが訴えることは、そういうことである。そしてジャックは歌う。「アメリカの白人だからなんだって言うんだ。所詮移民だろ?」。

 このアルバムは、アメリカのすべてをいったん「無」に帰す。アメリカという国家がまるで最初から存在しなかったかのように、鮮やかに、だ。だが、このアルバムが感動的なのは、これが崩壊したアメリカの残骸を見下ろす悲壮のロックではないというところだ。アメリカが崩壊した「その後」にまできちんと責任を果たした、ブルース・ロック・アルバムだということなのだ。灰と化したアメリカを多くの人々が認識し合った時にこそ、また新たな何かを始めることができる。むしろ、それを認識しない限りこの国はもうどうにもならない。揺らぎ始めた足元に絶望的な眼差しを向けながらも、そこに一縷の望みを託した、そんなアルバムだったんだと思う。1枚のアルバムに国家レベルのでっかいテーマをぶち込み、なおかつ世界レベルでの支持と評価を得る。こんなバンド、50年以上のロック史の中でふたつといただろうか。稀有なバンドの、極めて稀有な、破壊と創造のロックンロール。
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