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The No.1 Album of All My Life

 「私のこの1枚」を選ぶこと、それはただ単にお気に入りのアルバムを選ぶことではなく、私はこういう人間です、あるいは、私はこういう人間でありたいと思っています、と宣言するようなものである。一種の厳粛な行為なのである。言ってみれば己の生きざまの証明の自己申告なのである。大袈裟ではなくそういうものなのである。だから選ぶのが難しいのだ。人は「私のこの1枚」を選びながら、その1枚を前にして鏡に映った自分を見るようにして自己を覗いているのである。山崎洋一郎

 「この1枚」こそ自分の生きざまの証明、そう言い切ることができたらかっこいいかもしれない。僕はまだ自分の生き方を達観できるほど生きてはいないけど、これから紹介する僕の現時点での「この1枚」は、自分の生きざまの証明を申告する時に(もちろんそんな機会はあるはずがないのだけど)欠かすことの許されない作品になって欲しい1枚です。アーティスト自身が持つ魅力、作品に吹き込まれた命の火、初めて作品に触れた時から今に至るまでに抱いた個人的な思い入れ……それら全てを加味した上での僕の「究極の1枚」です。10代の置き土産にしてしまうにはあまりにも勿体ない、一生道連れにしたい作品です。
 キャリアの文脈を捉える上でのその作品の立ち位置、各楽曲が抱え込む音的情報や魅力などが選出に絡んでくるのは当然。でも僕の「この1枚」、それは、最新技術が集結した薄型携帯よりもはるかに薄っぺらいたった1枚のプラスチック盤に自分勝手なまでの思い入れを全てぶちまけてやりたくなるような、その1枚のプラスチック盤に刻まれたストーリーを独りよがりな解釈で語るだけで止めどなくアドレナリンが放出されるような、とにかく自制がきかないぐらいどうしようもなく「大好き」なアルバムです。これから書くことに共感できるかどうかは別にして、これを読んでみなさんに自分だけの「この1枚」と真剣に向き合ってもらえたら幸いです。それでは紹介します。

PRISMIC / YUKI
PRISMIC



 「06年の邦楽必聴アルバム」「これを押さえれば06年は大丈夫」。そのような謳い文句と共に行われる昨年の日本の音楽シーンを振り返る企画に、『WAVE』(06年)は必ずと言って良いほど名を連ねていた。自分の周りにもあの作品を聴いている友達はたくさんいて、ほとんどみんな手放しで高い評価を示していた。インターネットでカスタマーレビューを見てみても、『WAVE』の支持率は圧倒的だ。あの作品をまるで「YUKIの最高傑作!」とでもいうような乱暴な評価をする人も少なくなくて、あの作品を06年のワースト・アルバムに選んだ自分の価値観は、どこか孤立した、おかしなものなんじゃないかという錯覚にさえ陥りそうになる。そんなことを考えながら『PRISMIC』(02年)を聴いていたら、誰よりも本当に孤立しているのは、ジャケットで左手を上げて写っているこの女性なんだということに初めて気がついた。彼女が、ピンク色のリボンに包まれた少し年上の女性に向って囁いたような気がした――そっちにもいるんでしょ?眠り姫、早く目を覚ましてよ――
 
 人は、YUKIのことを「個性的だ」と言う。その言葉を耳にするたびに、彼女から何を受け取ってそう思ったのかを問いただしたくなる衝動に駆られる。加齢という概念を母親の体内に置き忘れてきたような幼すぎる容姿か。幼さと実直さが宿った「何か」が憑依したような独特の歌声か。もちろんそれも一理あるだろう。だが、そんな理解するのに難くない外面的なことだけだろうか。彼女の目に宿る本当の個性は、彼女のことを「個性的」という言葉でしか語れない大衆によって、踏みにじられ、無視され、忘却の彼方へ葬り去られてしまった。それが、『PRISMIC』だ。
 『PRISMIC』には、まだあどけなさの残る髪の長いひとりの少女が棲んでいる。彼女の名前は眠り姫。彼女は、独りぼっちで、童心を忘れていなくて、最上の愛を持っていて、永遠に解けない呪いをかけられている。それを誰かに気付いてほしくて、本当の自分を知ってほしくて、そのためにみんなの列から故意に離れて迷子になってしまうような困った女の子だ。突然、後頭部に何か硬いもので思いきり殴られた衝撃を覚えて振り返ってみると、彼女が右手に大きな石と一緒にありったけの悪意を握り締めて、あまりにも無防備な格好で、そして、顔には無邪気さとどこか計画的な笑みをへばりつけて、そこにポツンと立っていた。すると、まるで右手がやったことを左手は全く知らないとでも言うかのように、彼女は左手にありったけの愛情を込めて傷口を優しく撫でてくれた──ヒッピーみたいなことを言っているのは分かっている。だが、『PRISMIC』とはそういうアルバムなのだ。そして、そんな眠り姫こそがYUKIの目に宿る本当の個性なのだ。
 プリズム――本作の圧巻中の圧巻であるあの名曲を冠したこの言葉、ひいては、YUKIの造語である本作のタイトル「PRISMIC(光の音)」の礎になったと思われるこの言葉は、「光を多角に分散させる多面体」を指す。その言葉が示す通りこのアルバムは本当に多角的で、いろんな方向へと飛び回るそれぞれの楽曲のバラバラさがそのまま刺激になって突き刺さってくるようなおもしろい作品だ。今の彼女の楽曲からは想像できないような泥臭いロックンロール・ナンバーである“眠り姫”と“呪い”、それらとは対照的にジャンプでもしそうな快活さを持った“the end of shite”、陰湿ながらも天空を仰ぎ見るような開放感を吐き出す“66db”、極上グルーヴを雪崩のように全身にぶち当ててくるライブには欠かせないダンス・ナンバーの“Rainbow st.”、彼女の最高傑作と言っても過言ではない名ラブ・バラード“プリズム”、心の中を掻き回すギター・ソロが内省的ながらも揺りかごの中で癒されるような名曲“ふるえて眠れ”など、打ち込みやピアノによる様々な色づけで多角性を打ち出している。だが、どの楽曲もバランスをとっているのはギター・ロックという土台の上だ。『joy』(05年)、『WAVE』の2作に抱いてしまういくつかの不安に、YUKIはロックンロール・スターであり続けようとしたあの頃の自分を過去に置き去りにしてしまったのか、というものがある。『joy』が植えつけたこの不安の種に『WAVE』は水を与えただけで、その不安に対する答えを聞くことはできなかった。そして、それにパーフェクトな答えを返してくれるのが『PRISMIC』だ。ミニマムながらも大胆なギター・ロックで構成されたこの作品での彼女はまぎれもないロックンロール・スターだった。そしてその数々のギター・ロックでYUKIは、歌い踊ることの喜び、壊れてしまった噴水のように溢れ出して止まらない愛情、吐き捨てられたガムのように心にへばりついた孤独の念、そして、決して「本物」にはなれない不完全な自分を歌った。ポップ・バンドとして頂点を極めたJUDY AND MARYの元ボーカリスト、女の子のカリスマ、そんな矜持や自惚れを捨て去って、やむにやまれぬ衝動に駆られた彼女は感情の綻びに身を任すことで自己の中に棲む眠り姫を呼び起こしたのだ。そんな刺激的な姿は、後に『joy』のセールス的な裏打ちよって明らかにされる孤立を伴ったが、最初からその強烈な刺激は大衆をとらえてはいなかった。標的は他でもない自分自身。目的は眠り姫の目を覚ますこと。手段は孤立とロックンロール。大衆のためではなく自分のために自分のやりたいことをやる。そう、顔も名前も知らないような大衆に笑顔を振りまく必要はない。迷子のYUKIが、僕は大好きだ。このアルバムには、『joy』以降「音楽を楽しむ」という名目のもとに失われた、YUKIの全てが集約されている。

 ここまで書いてきて、独りよがりな思考をいくらたくましくさせても結局「価値観の孤立」は追い払えないのだけど、『PRISMIC』のジャケットに佇む彼女を信じていられるのなら孤立するのも決して悪くない。眠り姫は孤立を抱え込んで生み落とされたのだし、彼女はそれを恐れてなどいなかった。眠り姫、孤立にしがみつけ。歌い続けろ、ロックンロールに感電する喜びを。
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20:42 | 音楽 | comments (6) | trackbacks (0) | page top↑
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コメント

# Non title
元気~??春休みももう終わりやね~またあわただしい前期が始まってしまうね↓↓

あ、今大阪にいます。泊まるところがなくてネットカフェにとまってますww

幸大の家ってどこらへん??
by: Tacchan | 2007/03/24 21:13 | URL [編集] | page top↑
#
なんとか元気にしてるわ~v-14
なんか春休み終るの早く感じるわ~。ずっと休みやったらなぁ。

俺の実家は吹田!の北千里!
でも俺の実家には泊まらせてあげへんで?笑
お土産よろしく~!
by: 幸大→Tacchan | 2007/03/25 21:32 | URL [編集] | page top↑
#
↓これ、プリズミックを凄くよく表してると思います。


突然、後頭部に何か硬いもので思いきり殴られた衝撃を覚えて振り返ってみると、彼女が右手に大きな石と一緒にありったけの悪意を握り締めて、あまりにも無防備な格好で、そして、顔には無邪気さとどこか計画的な笑みをへばりつけて、そこにポツンと立っていた。すると、まるで右手がやったことを左手は全く知らないとでも言うかのように、彼女は左手にありったけの愛情を込めて傷口を優しく撫でてくれた──


私はこんな素晴らしく言えないけど、言ってる意味は 凄く理解できます。同感、素晴らしく同感。
プリズミックの一番の面白さはここにあるのよね。

音楽を楽しむ
プリズミックは一番楽しんでる と思う。

やっぱりいいね プリズミック。

私はうまく言えないので (というか私が言葉にすると、良さがうまく表せない気がするので)斎藤氏におまかせします。笑


余談ですが、最近やっと さよならダンスに目覚めました。 あれ、めっちゃいいやん。笑
by: 突然発熱したよガール | 2007/03/25 23:37 | URL [編集] | page top↑
# 大丈夫~?
ありがと!
「突然~」は我ながらよく書けたなぁと自負しているところでございます。笑
なんか、『PRISMIC』のバラバラさっていうのは、
鍋になんでもかんでもぶちこんでごった煮にするっていう感じよりも、
中心をなすひとつのものから放射状にあちこちに放たれた音っていう感じがして、
それはまさに「光の音」なわけで。
決して関連性のないバラバラではないということが少しでも表せたかと。
あぁ、なんかわけわからんくなってきた。笑

『PRISMIC』が一番カラフル。
一番無邪気で、一番楽しんでる。

良いね、『PRISMIC』。
初めて聴いた時はホンマによくわからんアルバムやなって思ってたけど
てか今でもそれは思ってるけど
それがそのままこのアルバムの魅力やわ。

俺は直感で全てをなぎ倒すような岸田音楽論好きやけどねv-218

ちなみに、“さよならダンス”はこのアルバムに目覚め始めた頃にすきやった。
『commune』のことといい、そこらへんは逆やね。笑

by: 幸大→突然発熱したよガール | 2007/03/26 13:39 | URL [編集] | page top↑
# ビリビリ



反則だね!笑


やっぱ幸大反則だゎ!笑 なんかレビュー読んでると、しあわせすぎる!
幸大も眠り姫の仲間だょ。
きっと。

眠り姫は夢から醒めないんだよ。
夢の世界から堕ちないように、しがみついて震えて眠る眠り姫。

ほんと圧巻やね。
感電か。。。
そうきたか。。。

びりびりびりびりさせていてほしぃ。
夢から醒めないでほしぃ。

眠り姫は幸大の中にも眠ってるんやね! 
by: 言わずと知れたできるまほ | 2007/03/26 17:43 | URL [編集] | page top↑
# ビリビリきた?
バイト初出勤やった~!
今度ぜひ学びYANSでどうぞ!笑

反則かどうかわからんけど、このアルバム聴いてる時は幸せや~!
まぁ「幸」せが「大」きい人やからね、俺はv-219

眠り姫は夢から醒めないけど、無邪気に駆け回るで。
覚醒しないけど、俺らを見てるで。
このアルバムは、眠り姫が俺らに向かってあげた産声。
迷子になってるからなかなか気付いてもらえないけど、
その声が聞こえたら、みんなの眠り姫は立ち上がるで。

・・・・・・俺、めっちゃヒッピーみたいやん!笑
まほもやけどね~笑

俺の文章でこのアルバムの100分の1でもビリビリきたら、素晴らしい。
by: 幸大→言わずと知れたできるまほ | 2007/03/27 00:42 | URL [編集] | page top↑

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