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オール・タイム・ベストってやつだ

The Velvet Rope
/ Janet Jackson

Janet - Velvet
振り向けば、愛
 後に『ディシプリン』以外のすべてのアルバムで制作を共にすることになるジャム&ルイスとの衝撃的な出会いを果たした86年発表の『コントロール』。実質的には三枚目のオリジナル・アルバムだが、ジャネットのキャリアはそこから始まったと言ってもあながち間違いではない。彼女にとっての最初のヒット作であり、ジャネット・ジャクソンというひとりのシンガーとしての人格を表すに欠かせないパフォーマンスが、初めて結実した瞬間のアルバムだからだ。すべてはそのアルバム・タイトルが物語っている。『コントロール』。交錯する思い。乱れる感情。自分を翻弄するそんな心の揺らぎを厳しく律し、支配し、心に惑わされることのない強靭なビートを、いかに打ち鳴らすことができるか。ジャネットにとって、踊るということは、そういうことだった。そんな自分への異様なまでの厳しさが、『コントロール』以降も『リズム・ネイション』や『ジャネット』というストイックで気高い傑作を立て続けに彼女にもたらした重要な条件であったことは間違いない。そんな彼女のディスコグラフィを見つめなおしたとき、『ジャネット』の次作として97年に発表されたこのアルバムだけが、明らかに異質の存在感を放っている。「アーティスティック」という苦し紛れの誉め言葉でしかあまり語られることのない、地味なアルバムではある。なぜならこのアルバムには、それまで彼女のサウンドの象徴でもあった、自らを規律する抑制のビートが、まったく鳴っていない。あの厳しさは、同時に彼女のプライドであり、自信でもあったのだろう。『コントロール』以降、常に屹然と正面を見据えて佇んでいた彼女は、本作のジャケットで初めてその顔を背けた。十枚あるオリジナル・アルバムの中で、彼女が顔を隠した写真が採用されたのは、このアルバムだけである。本作で、彼女は恐らく自らを最も端的に表現するであろうその顔を、すでに失っている。
 決してひとつの明確なコンセプトに沿って作られたアルバムではない。ただ、自分が愛しいと思う誰かを、そのまま、愛しいまま描こうとした愚かしいほどに真正直でピュアな衝動が、おのずと背景を伴った物語を選び出している。だからこそ、彼女にとって本作で重要だったのは、心を制御し、強靭なビートを叩き出すことではなく、むしろ、踊ることを止めることだった。ビートに合わせて踊るのではなく、心の揺らぎに溺れるように、踊らされること。蜜月から孤独までのあらゆる波間を描く“ユー”“ゴー・ディープ”“トゥゲザー・アゲイン”“エヴリ・タイム”“アイ・ゲット・ロンリー”“スペシャル”といった錚々たる名曲が並ぶ本作だが、Q-tipと共演した“ゴット・ティル・イッツ・ゴーン”が特に素晴らしい。失恋をモチーフにしながら、失わなければ手に入れられないものがある、という非常に表現し難いもどかしさを、見事に描き出している。失わなければ手に入れられないもの。それは、本作そのものを表象するようなテーマのひとつだ。踊ることを止めることで、心の赴くままに、初めて躍らされた恍惚。顔を背けることで、初めて浮かび上がるもうひとつの「わたし」。ビートを失うことで、初めて手に入れることのできたタイミング。それが当然のことであるかのように、失ってみるまで気付かなかった。愛しくてたまらなかったあの人こそが、わたしの鼓動、時間、そして他ならぬ「わたし」自身だった。愛はたまに、気付かないほどなめらかに、気付いてみれば驚くほどダイナミックに、あらゆる法則を超えるときがある、ということかもしれない。初めて聴いてから今年でちょうど十年目になるけど、いまでもマジで頻繁に聴く名盤中の名盤。絶対に持っておいた方がいい。
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